
とにかく、最初は何も聞かず。ただただ心を無にしてその作品を眺めるところから始めてほしいと思います。東御市にある信州屈指の珍スポット『蜂天国』は、そういった場所だと思うのです。説明は後述しますので、まずはその空間の中に潜むアートの世界を存分に堪能してみて下さい。

ズン!

ズン!

ズズン!

ズズズン!!!
どうですか、このぶっ飛びアートの世界観。キイロスズメバチという蜂が作る大きな巣を使って、あらゆるアート作品を展示しているのです。アートって聞くと、いかにも蜂の巣を使って綺麗なオブジェを作るものを想像しそうですが、ココではとにかく『くっつける』ということに執着。鳥かごにくっつけたり、剥製にくっつけたり、照明器具にくっつけたり、やりたい放題なのです。

これがその『蜂天国』の正面入口
東御市加沢にある蜂天国。正面に大きな蜂のオブジェがある上に、デカデカと蜂天国と看板が掛かっているので、近くに行けば一発で分かると思います。建物自体は、工事関係の現場事務所のような形状なのですが、これらのオブジェがあることで一撃で摩訶不思議な世界に様変わり。

唯一、このブラックボードだけがポップでした

蜂とは関係ないですがタイヤでできた恐竜もいます

蜂の供養塔までありました
入館料300円を支払うと中を見学できるようになっています。訪れたときは女性の方が受付をしておられました。はちみつなどのお土産品も買えるのですが、売店だけなら入館料は要らないようです。

入ると、14分ほどのビデオを見るコーナーが

スズメバチへの思いがずらりと書かれていました
蜂天国の館長である塩澤さんは、セメント会社の経営者らしいのですが、昔から見て来た蜂への好奇心を抑えきれず、とうとうキイロスズメバチの巣でアートを作ったのが平成6年のこと。以降、本業そっちのけで夏の時期はスズメバチの巣の採取にのめり込み、次第に各方面から駆除依頼がくるほどに……。現在では、当たり前のように依頼先の現場に行って巣をとってきて、アート作品の制作に没頭しているのだそう。ちなみに、実際に駆除する様子は、館内に流れているビデオにおさめられていました。

「ハチは悪者にあらず」を実証する塩澤館長
一般に、スズメバチと言えば「怖い、毒だ、逃げろ!」と害虫に扱われがちですが、塩澤館長は違います。せっせと働き、身体の何倍もある大きさの巣をあっという間に作り上げるスズメバチの力は、人間も社会で見習うべき姿とリスペクト。こっちが襲わなければハチも襲わないということを実証すべく、館内のいたるところに裸でハチと接する写真が飾られていました。

「ハチは多才な建築家」という名言もたくさん貼られています

というわけで、館内にはたくさんの蜂の巣アート
ここまで説明したところで、再びキイロスズメバチの巣で作ったアート作品に話を戻しましょう。正直言って、事細かい説明を聞かずとも、こうした作品を見ているだけで塩澤館長の想いは十分伝わるような気がします。それぐらい作品は多岐にわたり、圧倒的な数を誇っています。

望遠鏡にも…

扇風機にも…

三輪車にも…

だるまにも…

ちょっとメルヘン…

信州の工芸品、ねこつぐらにも…

タイヤにも…

布袋様にまで…

鮭をくわえてる場合ではないですよ…

こけし

なんか逆に美しい

お賽銭をするパターンまであるんだ…布袋様だもんね…
もうお腹いっぱいってくらいに、だけどもっともっと色んなパターンが見たくなるドキドキ感。それが蜂天国マジックなのかもしれません。一歩一歩進むごとに、スズメバチアートの世界にどっぷり浸かっていく自分がいるのが分かります。
ただしかし。これまで紹介したものは中でも小粒なものばかり。館内の奥には巨大アートが待っていました。

スズメバチの巣120個を合体させて作った新幹線あさま号

80個合体の雷門

高さ6.5mのもの、御柱のようだけどなんか違う

そして160個合体の富士山型!

富士山はギネスに登録されています
一番ビッグなのが、高さ3.776m、スズメバチの巣を160個合体させたという富士山。平成11年に完成したものなのですが、その当時は「より大きく」をスローガンにしていたかのように、毎年ビッグサイズなものが作られていたみたいです。あとで受付の人に聞くと、スペースが無いので最近はそこまで大きなものが作れないのが悩みの種だとか……。確かに今でも結構限界ってくらい館内に並んでいますからね。

ちなみに平成25年度はコレにくっつける予定
秋頃になると巣が集まって来るので、20個合体させて『ハチのミーちゃん』の制作が予定されているという話。このヘビのどの部分にくっつくことになるのか、楽しみですね。制作過程も見学できると思うので、興味があれば秋頃にコチラに訪れるとより楽しめるかもしれません。

帰り道、窓から見える蜂の巣に後ろ髪を引かる想い…
ここまでスズメバチに魅せられた人は世界にも塩澤さんしかいないでしょう。ただ、そんな塩澤さんの気持ちを奮い立たせるのは、単なるアートへの憧れではなく、ハチ本来が持つ魅力が大きいのだと思います。ホントは凄い昆虫なのに、忌み嫌われている存在となったスズメバチ。そう思うとちょっと可哀想な気もしますね……。なんだかんだ、はちみつで恩恵を受けている割に、リアルなハチを見ると怖く気持ち悪く感じてしまうのが人間です。
ぜひ、興味が沸いた人は蜂天国に行ってみましょう。